現在、世界で約1億2000万人が紛争や迫害によって家を追われています。
シリアやイエメン、アフガニスタンなどで長引く難民問題が解決しない中、ウクライナや中東、アフリカなどで新たに人道危機が発生し、UNHCRとして必要な活動資金が恒常的に不足してしまう状況が続いています。特に社会の関心が薄れつつある地域へ資金が集まりにくく、十分な支援が提供できない点が大きな課題です。
UNHCRの活動現場の中には、資金不足により職員の削減や活動の縮小を強いられている地域もあります。例えば、着の身着のまま逃れてきた100人のうち、70人にしか毛布を提供できない―。そんなジレンマに現場は直面しています。
戦争、災害、資金不足― 追いつめられる難民
シリア
紛争で失われた13年と大地震-苦悩するシリア
集まっている資金 26%*
*支援に必要な資金に対して集まっている割合(2024年7月現在)
2011年に始まった紛争は終わりが見えず、世界で最も難民を生み出している国です。
今や人口の9割・1670万人が人道支援を必要とし、1290万人が食料不安に直面しています。2023年の大地震では多くの家屋が倒壊、約6000人が死亡し多くの人が再び家を失いました。レバノンやヨルダンなど周辺国に逃れた難民も貧困に苦しみ、過酷な生活を強いられています。出典:2024 UNHCR Syria Needs Overview (February 2024)
ヨルダンからの声
「いつか、学校に戻りたいけれど…」ムーサさん(14歳)
シリアからヨルダンに逃れているムーサさん。父親は体調が悪く、働くことができません。そのため、一家は現金給付支援と母親の収入に頼っていましたが、支援が打ち切りとなったため、ムーサさんが働くほかなくなりました。「学校はやめました。支援がなくなり、お母さんの仕事だけでは足りないんです。いつか、学校に戻って医師になりたいと夢見ています。でも、僕の肩に責任がのしかかっているのを感じます」。
シリアでのUNHCRの支援(2023年)
- 保護サービスの提供(子どもの保護、心理社会的ケア、性暴力の被害者支援、身分証明書作成など)…130万人
- シェルター支援(家族用テントの提供、破壊された家の修理・再建支援など)…6932世帯
- 地震の被災者への緊急現金給付…1万3718世帯
- 中途退学を防ぐための補修授業(教育支援)…5万5000人
イエメン
「世界最悪の人道危機の一つ」
集まっている資金 14%
(2024年6月現在)
9年にわたる紛争で経済やインフラも崩壊し、1820万人が人道支援を必要としているイエメン。食料不足により、特に乳幼児や妊産婦、高齢者の栄養不良が深刻です。避難している人々は社会サービスにアクセスできず貧困に苦しみ、食事を抜いたり医療・教育も受けられず、劣悪な住環境への移転、児童労働や早すぎる結婚などを強いられています。 2024年、UNHCR イエメンでは現金給付支援を20%削減せざるを得ず、2万世帯(14万人)に影響が出る見通しですが、7月には大洪水が発生、国内避難民のシェルター1300棟以上が全壊し、さらなる緊急事態となっています。出典:YEMEN:THE COST OF INACTION AS OF 5 MAY 2024 (OCHA)
イエメンからの声
「まだ朝食も食べていません」アイシャさん(イエメン国内避難民)
「私の夫は亡くなり、私が家族の生活を背負っています。イエメン・ホデイダから避難してもう2年です。私はごみを回収しリサイクルして家族を支えています。私がこの仕事をしなければ、子どもたちも私も夜まで空腹のままです。今日もまだ朝食を食べていません。息子の一人はてんかんの持病があり、外で倒れることがありますが、治療を受けることができません。世界の人々に私たちのことを知ってほしいです。どうか、皆さんのできる範囲で支援してください」。
イエメンでのUNHCRの支援(2023年)
- 緊急シェルターの提供…2539世帯
- 破壊された家屋の修理、再建支援…7417世帯
- 現金給付支援…57万世帯(難民、国内避難民、受入れ地域)
- 難民、受入れ地域の子どもの初等教育への登録…8983人
- 5歳未満の乳幼児と妊産婦の栄養プログラム…1712人
アフガニスタン
長年の紛争と頻発する災害に苦しむ人々
集まっている資金 37%
(2024年6月現在)
アフガニスタンは、約40年にわたる紛争と干ばつなどの災害、慢性的な貧困と食料不安に苦しめられてきました。2021年のタリバンによる政権の掌握後も社会は不安定で、女性の教育や就業等の権利は制限されています。2023年に大地震、2024年には大規模な洪水が相次ぎ、甚大な被害と死傷者を出す中で人々は追いつめられ、支援を必要としています。
アフガニスタンからの声
「3日前に生まれたばかりの孫娘が…」サイフラフマンさん(55歳)
サイフラフマンさんは、9人の子を持つ父親です。10年前に避難先のパキスタンからアフガニスタンへ帰還してきました。2024年7月、このナンガルハル州の村を破壊的な鉄砲水が襲った時、彼は3日前に生まれたばかりの孫娘、ロキアちゃんの誕生を親戚と祝っていました。その時、暴風雨で家の屋根が崩れ落ちたのです。サイフラフマンさんと親戚は半狂乱になって瓦礫を掘り起こし、家族を助けようとしました。「命を救うために、できることはすべてしました。でも11人が死んでしまったのです」。その中には、生まれたばかりのロキアちゃんと3人の孫、息子1人も含まれていました。深い悲しみの中で、彼は将来のことを懸念しています。「私たちの家は壊れ、ホームレスです。もう建て直すことはできません ― その余裕はありません。衣類や支援が必要です」。
アフガニスタンでのUNHCRの支援(2023年)
- 緊急シェルターの提供…2539世帯
- 援助物資(毛布など)の配布を受けた人…10万1000人
- 現金給付支援…536万4000世帯
- 心理社会ケアの提供…4万人
- 子どもの保護…3万人
- 防寒支援の提供…2万5000人
「命を救うための支援」をとにかく最優先としています
森山毅シニア緊急対応コーディネーター
2023年は過去十数年で最も多く緊急事態が宣言され、29か国で43回もありました。実に10日に一回は緊急事態宣言が出ていたことになります。緊急対応でUNHCRが力を発揮するためには、緊急事態が起こる前にしっかり準備し、緊急時の対応計画を策定しておくことが不可欠です。紛争はいったん始まるとなかなか終わらず、解決に時間がかかります。紛争が解決するまでは人道援助は不可避で、開発や平和維持活動との早期からの連携を今後ますます強めていかなければならないと考えています。
国連は中立の立場なのですが、場合によっては攻撃のターゲットにされてきているのが現実で、今は昔と比べて簡単に難民のいる現場へ行ける状況ではなくなってきています。ソマリアに着任した翌年の2017年には、アルシャバーブ(ソマリアで活動するイスラム過激派組織)による大きな爆撃がありました。首都モガディシュの市長とは当時緊密に連携し、世界難民の日には式典も開いていただきましたが、事務所で自爆テロに遭い、亡くなりました。
一番印象に残っているのはアフガニスタンで、2021年、タリバンが侵攻してきてカブールを占拠した8月15日までとその後数か月の期間です。その前に米軍の撤退があり、いずれカブールも占拠されると予想はしていましたが、そのスピードが早かったです。タリバンがカブールを占拠し、大使館なども一斉に退避する中でも、「UNHCRはアフガンに残って仕事をする」「支援を止めることはできない」のが大前提でした。「我々はアフガニスタンの人々のために残る」という象徴的で重要なメッセージだったと思います。
緒方貞子さんにはUNHCRの現場でもお会いする機会があり、最後は10年くらい前に日本でお会いしました。緒方さんは何よりも「フィールド重視」でした。我々がフィールドにいることが重要で、首都ではなく現場で仕事をする。それはレガシーとして残っていて、UNHCRのスタッフの多くはフィールドベースで働いています。緒方さんは、「難しい状況で働くのがUNHCRの仕事。難しいのは当たり前なのだから、そこでどう仕事を進めて、援助できるか。状況を踏まえてともかくできることをやっていく」という考え方でした。
UNHCRはパートナー団体とともに知恵を絞りながら仕事の効率を上げ、他方経費をできるだけ節約しようと努力していますが、すでに優先順位をつけて「最優先」としている援助活動の中から、さらに「最優先」を見つけなければならない状況です。難民からは支援への期待があるのですが、やりたくてもできないことがあり、現実はかなり厳しい。アフガニスタンでは教育、特に女子生徒が勉強を続けられるような環境を再構築することが重要です。一方で、緊急時には公共衛生や水の確保など「命を救うための支援」をとにかく最優先としています。
難民に関心を持ってくださることはありがたいですし、私たちUNHCRのスタッフにとって大変力になります。それはまさしく国境を越えた人間同士の友愛と信頼であり、その思いが難民の人たちの支えとなり、国際社会の原動力となっています。ご支援はもちろん、難民問題に関して興味関心を持ってくださる人がさらに増えていくことを願っています。日頃のご支援に、心より感謝申し上げます。これからも、どうぞご協力をよろしくお願いいたします。
深刻な資金不足
UNHCRの現場では何が起きているの?
家を追われる人が年々増え続け、UNHCRの支援対象者も増加の一途をたどる一方で、UNHCRの資金不足は深刻化しています。2023年、UNHCRの中東・北アフリカ地域(シリア、レバノン、スーダンなど)への寄付金は前年から214万米ドル減少し、活動に大きな影響を及ぼしました。2024年は世界で約1億2000万人が家を追われており、過去最多を更新しました。一方、世界で紛争や災害は続き、特に長期化している難民問題への支援は減っています。世界的な食料・燃料の価格高騰、失業率の上昇や「自国第一主義」の流れなどもあり、2024年は昨年以上に厳しい資金不足になると予測されています。今、支援の現場では何が起こっているのでしょうか。
援助活動の予算 20%を削減 ― シリアの場合
2024年7月現在、シリアでの支援に必要な資金のうち、集まった金額は26%にとどまっています。シリアで支援のニーズが増えているにもかかわらず、UNHCRはすでに支援の予算の20%削減(1940万ドル)を余儀なくされています(2024年5月現在)。現場のスタッフを減らし、支援の核となるシェルター支援、援助物資、現金給付支援などが削減となっています。
レバノンからの声
「以前は支援を受けていましたが…」モハメドさん・アイシャさん夫婦
シリアからレバノンに避難しているモハメドさんとアイシャさんの夫婦。夫のモハメドさんは障がいを負い、アイシャさんのわずかな収入で家族7人が暮らしています。「子どもたちを学校に通わせる余裕はありません。パン1枚を買うのも大変なのです。いつも不安でおびえています」。とアイシャさん。「以前はUNHCRの支援を受けていましたが、今ではありません。子どもたちは働いていましたが、もう仕事もなくなりました」とモハマドさんは言います。UNHCRは、最も脆弱な人々を優先して支援を行っています。かつては支援を受けることができた人々が、資金不足の影響を最も受けているのです。
今、いっしょに届けよう。「命を守りたい」という思いを、最前線へ。
「少しの寄付ですみません」。ご支援者の方から、そんな声をいただくことがあります。しかし、そんな一人ひとりの貴重なご寄付が日本中から集まり、今日までUNHCRの活動を支え、難民の命を守ってきたのです。UNHCRの資金不足が深刻で、世界各地で支援の縮小を強いられている今、あなたのご寄付はかつてないほど意味があります。その支援は、必ず誰かの笑顔につながります。
家を追われ、助けを必要とする人がいる限り、UNHCRはあきらめません。
どうぞ私たちと一緒に、支援を届ける力になってください。
あなたの支援で、また一人、誰かが笑顔に。
あなたのご支援でできること
1年間のご支援で、食費や医療費にもなる現金給付と毛布など必需品:約3家族分
1年間のご支援で、電気がない避難先の夜も安心なソーラーランタン:約22個分
1年間のご支援で、温かい食事を作るための調理用コンロ:約7家族分
※1年続けていただいた場合、1ドル=149円換算
※支援を行う国・地域や情勢により物価は変動するため、上記の金額は目安です。
皆様からのご支援は、医療や衛生支援を含む資金を最も必要とするプロジェクトに活用させていただきます。
- 当協会へのご寄付は、寄付金控除(税制上の優遇措置)になります。お送りする領収証は確定申告にご利用いただけます。
- ご支援者の皆様にはメールニュース、活動報告等を送らせていただき、難民支援の「今」、そしてUNHCRの活動を報告させていただきます。
- Webでご寄付いただく際の皆様の個人情報はSSL暗号化通信により守られております。