「健康への権利」は、医療、安全な水、適切な衛生設備、健康に関する情報と教育などにアクセスできることを意味し、難民を含むすべての人にある権利です。しかし、難民がこの健康上のニーズを満たすには、様々な困難が伴います。
UNHCRは、政府や他の国連機関、NGOや民間セクターなどの140以上のパートナー団体とともに下記の取り組みを行っています。
医療サービスの提供とアクセスの向上
1951年に採択された難民条約は、受け入れ国の人々と同等の医療サービスに難民もアクセスできることを規定しています。UNHCRは各国やパートナー団体と連携し、緊急時や避難が長期化した状況下にかかわらず、受け入れ国で難民が必要とする健康支援や医療サービスにアクセスできるように調整しています。
トラウマ等に対するメンタルヘルスケア・心理社会的支援
難民は避難先にたどり着くまでに家族を失ったり暴力や搾取等の被害に遭うことも多いため、精神的なトラウマを抱える方も少なくありません。UNHCRは、精神的トラウマを抱える難民のために、適切なメンタルケアを行えるよう職員に対する訓練の実施や、教育やスポーツ等を通じた心理社会的支援にも取り組んでいます。
リプロダクティブ・ヘルスサービスへのアクセス向上と啓蒙啓発活動
リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)とは、性や子どもを産むことに関わるすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられることです。(参照:JOICEF)UNHCRは、難民の妊婦や新生児へのケア、適切な避妊法の普及・アクセスの向上、エイズなどを含む感染症の予防法及び治療法の啓蒙活動等に取り組んでいます。
食料の確保及び栄養状態の改善
難民は身一つで避難する方も多く、避難先に到着した際には深刻な栄養失調状態に陥っている方も少なくありません。UNHCRは、WFPやパートナー団体等共に難民が避難先に到着した際の栄養状態の評価及び改善に取り組んでいます。また、難民を対象とした栄養プログラムの実施や、食料の供給、現金給付支援なども行っています。
安全な水・衛生環境の提供及び啓蒙活動
人々が家を追われると、安全な水や衛生設備を利用できず、健康や生存が脅やかされる可能性があります。水場までの距離が長いと、水を運ぶだけで体力的に負担がかかり、生産的な活動への参加や教育の妨げになると同時に、子どもや女性が性的暴力にさらされる危険性があります。UNHCRは、WASHプログラム*を掲げて難民キャンプや都市部に住む難民に、安全な水と衛生環境の提供及び啓蒙活動を行っています。キャンプや受け入れコミュニティの資源を圧迫しないよう、太陽光パネルを活用した環境にやさしいシステムを導入したり、継続的に安全な水を確保できるよう深井戸の掘削や設置等も、UNHCRの優先事項と考えています。またこれらの活動は、受入コミュニティとの良好な関係作りにも役立ちます。
*UNHCRのWASH(Water,Sanitation and Hygiene=水と衛生)プログラムについて
十分な量の安全で綺麗な飲料水を確保するために、給水処理システムを構築しています。難民が清潔な水を使い、有害な病気が拡散しないようにトイレやシャワーのような衛生施設の建設に資金提供をしています。
また、UNHCRは女性や少女がプライバシーと尊厳をもって月経時を過ごせるように、石鹸、衛生用品、生理用品を提供しています。
健康データの収集・活用・分析
UNHCRは、難民の健康状態を収集したデータベースを利用することで、政府やパートナー団体と共に難民の栄養状態の登録や管理、分析を行っています。それを通じて難民の健康に関する問題やニーズを把握したり、避難先での医療計画や政策の決定の際に難民が取り残されることなく含まれるよう努めています。
新型コロナウイルス感染症への対応
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、今世紀最大の公衆衛生上の危機です。感染力が強い新型コロナウイルスによって引き起こされる感染症のパンデミックは、世界中の故郷を追われた8,000万人以上の難民や国内避難民を、さらに困難な立場へ追い込んでいます。 UNHCRは、新型コロナウイルス感染症への対応として次のことに取り組んでいます。 ・早期診断を含む医療サービス ・水や衛生へのアクセス確保 ・必要不可欠な医薬品や物資の配布 ・予防対策の推進 ・メンタルヘルスと心理社会的支援の提供 ・コミュニティとの対話 ・受け入れ国と連携し難民の受け入れ地域での統合 ・医療従事者への医療資材と器具の配布などのサポート 基本的な健康を維持するためのサービスや食料支援といった、その他の保健・公衆衛生に必要不可欠なサービスへの支援も継続して取り組んでいます。