難民への水の供給を脅かす気候変動 - UNHCRの対策について -

公開日 : 2019-04-23

人道援助従事者にとっては、水の欠如も過剰も課題です

2004年、豪雨の後、チャド東部にて新しいシェルターを探すダルフール地域から来たスーダン難民

2019年3月22日 ― 1人1日20リットル ― UNHCRが難民キャンプで生活するすべての難民へ供給しようとしている最低限の水の量です。しかし、UNHCRがこの欠くことのできない数値を達成できているキャンプは、わずか43%しかありません。気候変動は難民への水供給を日に日に困難にしている主な要因です。

 
1人1日20リットルを比較してみましょう。平均すると、欧州連合(EU)の人は、1日で128リットルの水を消費します。アメリカ合衆国では、すべての人が毎日消費する量は300リットル以上にまで上昇します。

 
「水は生きるために必須ですが、それ以上のものでもあるのです」と、エヴァ・バレンバーグUNHCRのWASH(Water, Sanitation and Hygiene=水と衛生)担当官は説明します。「人々が病気にならないように、飲み水にも、料理にも、掃除にもシャワーにも使われます。風呂に入るだけではなく、植物や動物を育てるためにも使われます。」

 

欧州連合(EU)の人の消費量は、1日128リットル、アメリカ合衆国では、300リットル以上です

 
また、水は難民の尊厳を取り戻す手助けをします。「悪臭を漂わせたい人はいません。不快に感じます。特に女性は、月経の時、清潔でいたいのです」とバレンバーグ担当官は付け加えます。

 
UNHCRには130人のWASH担当スタッフがいます。そのうち女性は16%のみです。彼らは世界各地のキャンプや都市で、難民が清潔な水を使えるように、下痢や腸チフスといった水媒介の病気が拡散しないように、そしてトイレやシャワーのような衛生施設を建設する基本的な衛生ニーズにも応えるために尽力しています。

 

「水の提供はチャリティー行為ではなく、人権の履行です」

 

「水と衛生に関わる仕事ほど、生活を改善し、人々の命を守るために最も貢献するものはありません」と、自身の仕事に情熱を注ぐバレンバーグ担当官は語ります。この仕事は、技術的スキルのみならず、公衆衛生の知識、そして数多くの社会的協同作業が関わってきます。

 
水を得られなければ、人々の生活は危機に陥ります。「水の提供はチャリティー行為ではなく、人権の履行です」と彼女は言います。「政治的、市民的な権利と同様に重要なのです。」

 
気候変動により、WASH担当者の仕事はさらに困難になっています。時に、それはチャド湖流域の破壊的な干ばつのような水不足であり、また、バングラデシュのモンスーンの雨のような水の過剰なのです。UNHCRが、困難に取り組んでいる例を以下にご紹介します。

2008年、チャド東部クノゥグ・キャンプで生活する、スーダンのダルフール地域から来た難民

クノゥグ・キャンプ:残されたわずかな水を共有して、平和を築く

チャド湖はアフリカ最大の湖ですが、水量はこの50年で2万5,000平方キロメートルから2,500平方キロメートルへ、90%も著しく縮小しました。5,000万人以上の生存手段を縮小させ、大規模な避難を引き起こしています。

 
湖が乾燥していくにつれ、この地域の紛争も悪化しました。2009年以来、ボコ・ハラムの反乱による暴力によって、チャド湖流域内で250万人以上が故郷を追われています。

 
⇒ ナイジェリア難民危機

 

このキャンプでは、UNHCRは1人1日14リットルの水しか提供できていません

チャドのクノゥグ・キャンプの水場付近に集うダルフールから来た難民の少女たち

このような乾燥した地域で、この多数の人々は、すでに枯渇している資源をさらに圧迫するという問題を突き付けています。「エコシステムが提供できる人数を超えているのです」とバレンバーグ担当官は言います。

 
2004年以来、スーダンのダルフールから逃れた何千人もの難民が、極度に乾燥した地帯であるチャド東部へ、安全を求めて流出しました。その多くは、クノゥグの小さな村にたどり着いたのです。

 
現在、約3,500人がクノゥグの村で暮らしており、難民キャンプでは難民2万人が受け入れられています。そのほとんどが、スーダン人です。このキャンプでは、UNHCRは1人1日14リットルの水しか提供できていません。

 
「とても大変なことです。なぜなら、突如この地で数千人が食糧と水を求めるのですから。しかし、地元には、彼らに提供するための資源が十分にないのです」とバレンバーグ担当官は付け加えます。

 
気候変動は、人道援助の仕事をさらに困難にする緊張感を与える“脅威の増殖”として作用することがよくあります。

 
ビティゼ・トレは、2004年以来クノゥグで状況を監視しているWASH担当官です。乾季(10~6月)の間、水の供給が危機的レベルの1人1日11リットルにまで落ち込む時、命を守るのに十分な水を地域のキャンプへ供給するため、UNHCRはトラックに頼らなければなりません。

 
「1日11リットルを達成するため、私たちは1か月ずっとトラックで水を運搬しなければならない時があります」とトレは説明します。「とても費用がかかります。」

 

「UNHCRが安全な水をもたらすと、地元のコミュニティーにとても感謝されます。緊張を解き、平和な共存関係を築く手助けになります」

 

UNHCRは、深井戸をつくるための採掘作業に投資したいと考えています。井戸は、より持続性の高い解決策だからだと、トレ担当官は説明します。十分な飲み水が見つかる井戸は3つに1つという、ある程度リスクがある大きな投資ですが、20年間は頼ることができる水源になりえるのです。

 
クノゥグ難民キャンプでの水へのアクセスの改善という事実は、数年にわたり、村の人々にある種の緊張感をもたらしました。だからこそ、地元と難民の利益をもたらすため、UNHCRは2009~2010年、村に4つの深井戸を掘ったのです。

 
「UNHCRが安全な水をもたらすと、地元のコミュニティーにとても感謝されます。緊張を解き、平和な共存関係を築く手助けになります。」

2018年6月バングラデシュにて、激しいモンスーンの雨によって新しいシェルターに移動する数千人ものロヒンギャ難民

コックスバザール:過剰な水もまた、問題になる時

私たちは気候変動と干ばつを関連づける傾向にありますが、その逆もよくあります。人々の命を奪い、インフラを破壊し、病気を拡散する、大規模かつ制御不可能な量の雨です。

 
モンスーンの雨は、バングラデシュにおける一般的かつ脅威的な現象で、気候変動により、さらに予測不可能で、攻撃的で、致死的なものになっています。2018年、この国は、数年でもっとも激しい雨季の1つに見舞われました。6、7月の各月に降った1,000ミリを超える雨量は、この2か月間の平均の半分以上に相当します。

 

衛生的観点から、洪水はさらなる大きな問題をもたらします ― 水質汚染です

バングラデシュのクトゥパロン・キャンプにて、激しいモンスーンの雨でシェルターへ移動を強いられる何千人ものロヒンギャ難民

ロヒンギャ難民90万人以上が36か所に渡る場所で暮らしているコックスバザールでは、20万人以上が命を脅かす地滑りと洪水の危機にさらされており、約4万1,000人が安全確保のため移動する必要があります。

 
⇒ モンスーン豪雨にさらされるロヒンギャ難民危機

 
衛生的観点から、洪水はさらなる大きな問題をもたらします ― 水質汚染です。

 
「人々がすでに混雑した状態で暮らしていることが多く、それ故に、より伝染病にさらされやすいキャンプにおいて、洪水であふれたトイレは感染や病弊といった衛生上の問題を拡散させます」とバレンバーグ担当官は言います。

 
もし、トイレの排出物等が掘削孔や井戸、帯水層、または川やダムのような地表水といった、供給される水に漏れたら、汚染されて病気が拡散してしまうのです。

 
水中のバクテリアと微生物を殺傷するために塩素を加える科学的解決策が、下痢や腸チフスといった病弊を制御できない状態にしないカギとなりました。

 
「この規模の難民サイトでは、塩素処理が命を守ります」と、コックスバザールでロヒンギャ難民対応をしているミナジ・ウディン・アハメッドUNHCR WASH担当官補は語ります。

 
また、バングラデシュのWASHチームは、効率を高め、他のエネルギー源に頼らないために、揚水と供給を太陽光発電による浄水場に依存しています。

 
高架タンク、太陽光パネル、掘削孔、パイプ網の取り付けには、コミュニティーの多大な労力が必要であり、地元がこのプロジェクトに深く関与しました。

 
「このコミュニティーはとても協力的で、私たちにスペースを提供するため、シェルターを移動してくれました。おかげで、処理装置一式を取り付けることができました」とアハメッドは語ります。「取り付けが完了した後は、地元コミュニティーと難民の両方が、不足する事態を避けられるように、パイプ網、水道、太陽光パネルの維持状況について定期的に報告してくれます。」

 

「もし難民に働く権利があれば、水道料を払い、持続可能な水の供給に貢献できます」

 

現在、世界各地のUNHCRのキャンプや居住地にある約300か所の深井戸のうちの約15%に、太陽光パネルが取り付けられています。このような環境にやさしいシステムの拡大はUNHCRの最優先事項であり、受入国において、難民が地元のコミュニティーに溶け込めるよう促しています。このように、UNHCRは、難民を受け入れている町や都市の水施設をサポートし、皆が利益を享受しています。

 

 
「もし難民に働く権利があれば、水道料を払い、持続可能な水の供給に貢献できます」と、バレンバーグ担当官は言います。「より大規模なインフラは、より巧みに干ばつや洪水に対処するので、気候変動のリスクも軽減できます。」

 

 
2017年後半、何十万人ものロヒンギャが、およそ1か月でミャンマーを逃れました。70万人以上です。WASH担当官たちにとって、このように大規模な人数の飲料水を確保するのは、大変な課題でした。

 
「流入の始めの頃、大勢の人数が到着していましたが、私たちは難民に安全な飲料水を提供できました」と、アハメッドは言います。「対応できていなかったら、キャンプで病気が大発生していたでしょう。そんなことは起こりませんでした。私たちはより効率的な方法を使い、水の品質を保ち、提供し続けています。これは私たちの最高の功績であり、誇りに思っています。」

バングラデシュのクトゥパロン・キャンプにて、太陽光で動く水施設を利用する若いロヒンギャ難民

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