ペルーのベネズエラ難民や移民の子どもたちに故郷の断片を伝える野球クラブ

リマにある野球トレーニング・クラブは、いつかプロになるという夢へのセカンド・チャンスをベネズエラの若者たちに与えています

公開日 : 2023-04-19

2019年、家族が故郷ベネズエラを離れると知った時、ハビエル・アレハンドロ・エンリケ君(8歳)は、何が一番恋しくなるかがすぐにわかりました。それは学校でも、近所の友達でも、いとこや祖父母でもありません。それは、野球でした。

リマ(ベル―)2023年4月6日 ― ハビエル君の家族は、ペルーに向けて進もうとしていました。ペルーには近年国外に避難した推定710万人のベネズエラ難民・移民のうち150万人近くが定住しています。

しかし、ハビエル君にとっては、両親のペルーという選択は災難以外の何物でもありませんでした。ベネズエラの国民的娯楽でありハビエル君が大好きな野球は、サッカーに夢中なこのアンデスの国では全く知られていないのです。

「もう野球をできないと思ったので、とても悲しかったです」と、今は11歳となったハビエル君は言いました。彼は3歳から野球を始め、大人になったらプロになるのが夢でした。

「僕が一番上手でした」と、彼は照れ笑いを浮かべながら回想しました。

ペルーの首都リマに引っ越してきたハビエル君には一緒に練習するチームがなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のロックダウンにより、自分一人でボールを投げに行くことすらできませんでした。彼の鋭いスキルは鈍り、気分は急降下しました。

彼の母親がリマ東部のサン・フアン・デ・ルリガンチョ地区にある少年野球クラブ“ロス・アストロズ”のことを偶然耳にしたのは2021年半ばでした。その時から、ハビエル君に明るい兆しが見えてきたのです。

「またプレーできるようになり、すごく上達できそうなので、とても興奮しました」と彼は語りました。

ベネズエラ北部の都市バレンシア出身の投手であるフアン・カルロス・ウルキア監督(37歳)は、ロス・アストロズに登録した幼児から10代までの50人ほどの子どもたちの間では、ハビエル君のような興奮した反応が普通だ、と語りました。

UNHCRからユニフォームや用具等の援助を受けるこのクラブは、新型コロナが流行した2020年、リマに住む別のベネズエラ人男性が息子を連れて公園に出かけて野球の練習を始めたことがきっかけで始まりました。ベネズエラの仲間たちが2人のもとに集まってくるようになり、父親は小さなトレーニング・クラブを立ち上げました。ロス・アストロズは口コミやソーシャルメディアへの投稿で広がり、今では数十人の子どもたちが日々の練習に少額の月謝を払って参加している、とコーチのフアン・カルロス監督は語りました。

メンバーはベネズエラ人が中心ですが、聞いたこともなかったこのスポーツに興味を持った一握りのペルーの子どもたちが加わりました。

「彼らが本当に速く学ぶことに私たちは気づきました」と、フアン・カルロス監督はペルーの選手たちについて語りました。

ベネズエラ人の多くは、ペルー人と一緒に基本に立ち返る必要がありました。国々を移動する際の混乱や、終わらないパンデミックによるロックダウンの中、故郷で野球に夢中になっていた人たちの多くも、「少し錆びついて」いて「錆びを取り除く」必要がある、とフアン・カルロス監督は言いました。しかし、調子を取り戻した今、彼の高い願望を共有する選手たちのために、彼は高尚な志を抱いています。

動画:南米ベネズエラの子どもたちに夢を与える野球クラブ

彼らの成長を見守ることは、「自分にとっての本当のサクセスストーリー」だと彼は語り「神の思し召しで、彼らの中からプロのチームと契約し、大リーグで活躍する人が出てくるでしょう」とも付け加えました。

「それは、私の血肉になっています」

フアン・カルロス監督自身も、ベネズエラでプロのチームと契約する寸前までいったことが何度かありました。そして幼かったハビエル君と同じように、故郷を離れるという苦渋の決断をすれば自らの野球人生が終わってしまうことを恐れていました。ロス・アストロズの監督を務めることで、彼は夢を取り戻しました。金銭的には厳しいですが、他のコーチたちと宿泊先をシェアすることで生活をやりくりし、彼の愛することをして日々を過ごしています。それは、野球をして、教えるということです。

「それは私の血肉になっており、その情熱を子どもたちに伝えようと努めています」と彼は語りました。「私は教えることが好きです。そして少年たちに規律や責任といった価値観を植え付けようと努めています。」

そして、このスポーツが多くの若い選手にとって有効な将来の選択肢になるかどうかは別として、フアン・カルロス監督は、野球のダイヤモンド型の球場に出られるだけでも神の恵みだと言います。受け入れ国に故郷の断片をもたらすものだと。

「私たちのように文化の異なる国から来る場合、(受け入れ国で)自分の好きなこと、情熱を向けられることを見つけ、実践できることによって、安らぎと落ち着きを得られるのです」とフアン・カルロス監督は言いました。


南米ベネズエラ難民危機

政情不安と社会経済の混乱、食料難、そして人道危機等から、数百万人が故郷を追われ、安全を求めて国境へ向かっています。故郷を追われるベネズエラの人々の尊厳と未来を守るため、どうぞ、今すぐ、ご支援ください。

※当協会は認定NPO法人ですので、ご寄付は寄付金控除(税制上の優遇措置)の対象となります。

X

このウェブサイトではサイトの利便性の向上を目的にクッキーを使用します。詳細はプライバシーポリシーをご覧ください。

サイトを閲覧いただく際には、クッキーの使用に同意いただく必要があります。

同意する