株式会社arca CEO 辻愛沙子さん 独占インタビュー「微力は決して無力ではないはず」
2021年11月から始動した国連UNHCR協会の女性支援プロジェクト「WOMEN+BEYOND 私たちから、世界を変えよう。」では、女性エンパワーメントの流れのなかに難民女性・女子の視点を組み込み「日本の私たちに何ができるのか」を共に考え、行動していくことをめざしています。今回は2022年11月にバングラデシュ ロヒンギャ難民キャンプに足を運ばれた株式会社arca 代表取締役/クリエイティブディレクターである辻愛沙子さんの独占インタビューをご紹介します。
公開日 : 2023-02-21
——辻愛沙子さんは社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として領域を問わず手がける越境クリエイターとしてご活躍されており、 女性のエンパワーメントやヘルスケアを促す「Ladyknows」プロジェクトも発足されたりと、クリエイティブ・アクティビストとして社会課題に向き合っておられますが、世の中を変えたいと行動を起こすようになったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
辻愛沙子さん:元々集団行動が苦手な子どもで、自分自身もどこか生きづらさを抱えてきたからというのが一つ目の理由です。
二つ目は、社会に出てから、"女性ならではの"など性別によるステレオタイプや押し付けを感じる事が増えたことをきっかけに、ジェンダーギャップへのアクションを起こし始めたことです。
ーーとくに性差による課題や女性のエンパワーメントについて、積極的に活動されている辻さんですが、日本は世界と比較してどういう状況だと思いますか?今後期待できそうなポジティブな面もあれば合わせて教えていただきたいです。
辻愛沙子さん:日本のジェンダーギャップや人権に対する意識はかなり課題を感じています。
政治、経済のどちらも未だ著しく同質性に溢れ、医療やスポーツなどの専門性が問われる分野においても意思決定層にあるのは多くが高齢男性。
その結果、それによって起こる様々な二次的弊害が社会のあちこちに存在しています。例えばSRHRの領域。アフターピルのOTC化は未だ叶わず、各国で当たり前に活用されている女性主体の避妊具はそのほとんどが未だ日本では未認可。同年に認可された低容量ピルとバイアグラに至っては、バイアグラが異例の半年でスピード認可されたのに対し、低容量ピルは34年間先送りにされ続けようやくの認可。それらの意思決定の背景には、政界や医師会の圧倒的ジェンダーギャップが関与していると思わざるを得ません。
ただ、私はそんな中で一抹の希望を覚えています。近年声を上げる若者がSNSを中心に確実に増えているということ。そして家庭内から職場まで、様々な場所で少しずつ意識改革や制度変更が起こっていることを、ひしひしと感じるからです。38年前の均等法制定から今日まで、着々とシスターフッドが受け継がれ社会を変えようという意志を持つ人々が増えてきている以上、時代の流れは不可逆なものだと信じています。
難民キャンプで感じた希望と葛藤
ーー国連UNHCR協会の難民女性支援プロジェクト「WOMEN+BEYOND」を通じて、実際に昨年2022年11月に同じアジアの人道危機であるバングラデシュ ロヒンギャ難民キャンプに足を運ばれましたが、実際行く前と行った後の印象の変化はありましたでしょうか?
辻愛沙子さん:間違いなくありました。UNHCRをはじめ本当に多くの方の支援があり、あの場所が日々少しでも安全に運営できるよう尽力されている方がこれだけいるんだという事に、まず希望を感じました。そして、子どもたちの表情が明るく笑顔いっぱいだったことも印象的でした。ただ、話を聞いてみると、やはりそれぞれ忘れられない避難の道中のつらさがあったり、自分の居場所がないという不安を抱えていたり、不自由なくただ思い切り全力で走り回りたいと小さい子がぼやいていたり、先の見えない避難生活での苦しさをまざまざと感じました。
ーー大規模避難から5年が経った今、キャンプ内では女性エンパワーメントのために活動している難民当事者の方々ともお会いされていましたね。実際にお会いし交流してみて感じたことはなんですか?
辻愛沙子さん:国連が掲げるHeforSheのような、男性が女性の安全やエンパワーメントのために立ち上がるケースもあるという事が、あの閉鎖環境の中でどれだけ力になるか…と痛感しました。また、逃げ込めるシェルターのような女性たちだけの場所もあり、生理や避妊のことなど、悩みがあっても外で聞きづらいと感じる女性たちが、話し合えたり相談し合える場所があることの意義を強く感じました。
微力は決して無力ではないはず
ーー今や世界で故郷を追われた人々の数は1億人を超えたと昨年の5月に発表されました。待ったなしの状況の中、今後、気候変動によって故郷を追われる人々も増えていくと懸念されており、より一層一人ひとりの行動が重要になってくると実感します。辻さんが社会課題に対しての共感を広げるために、重要だと思うこと、心がけていることはなんでしょうか?またこの難民の現状に対して日本の私たちができることはなんだと思いますか?
辻愛沙子さん:人数や深刻さを目の前にすると、課題の大きさと根深さをまざまざと感じて、自分の非力さを痛感せざるを得ない領域だと思うんです。でも、微力は決して無力ではないはず。忘れられた時こそが難民の方々にとっての苦難だと思うので、今この瞬間にも存在する彼ら彼女らを決して不可視化せず、SNSを通じてや周りの人たちと対話をし続け、自分のできる範囲で寄付や支援などをしていく。大きな課題や痛みを前に一見無力にも思えるほんの少しのアクションが、巡り巡って連鎖して大きな力になると信じています。私も微力ながら、支援や発信や寄付を続けていきたいです。

辻愛沙子(つじ・あさこ)
株式会社arca代表取締役/クリエイティブディレクター
社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組 news zero にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。
国連UNHCR協会の女性支援プロジェクト
WOMEN+BEYONDプロジェクトシーズン2で目指すのは、バングラデシュでのキャンプ生活が5年目を迎えたロヒンギャ女性たちの自立支援です。
未来への展望が不透明な環境でも、自らの力で助け合い、未来を切り開こうとする女性たち。いっしょに彼女たちのストーリーを知り、次の一歩を私たちの力で支えませんか。
※当協会は認定NPO法人ですので、ご寄付は寄付金控除(税制上の優遇措置)の対象となります。