第18回難民映画祭・映画特別解説『シャドー・ゲーム ~生死をかけた挑戦~』『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』

 第18回難民映画祭2023で上映される映画『シャドー・ゲーム ~生死をかけた挑戦~』と『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』の日本語字幕は、青山学院大学総合文化政策学部「映像翻訳ラボ」の学生グループが、それぞれ、2021年と2023年の本邦初公開にあわせて作成しました。このページでは、より多くの方がこれらの作品の理解を深め、映画としていっそう楽しんでいただけるよう、私たち「ラボ」の学生が独自にまとめた作品解説を掲載しています。これらの作品の視聴と合わせてお読みいただければ幸いです。

公開日 : 2023-11-13

1.概説

〇 2つの「ゲーム」に描かれる世界

これら2つの作品に監督として携わるオランダ人エーフィエ・ブランケフォールト (Eefje Blankevoort) とエルス・ファン・ドリール (Els van Driel) は、2014年よりヨーロッパの難民に関する活動をともに行ってきた。2人は、2017年にギリシャでEUトルコ合意を題材とした映画製作に取り組んでいた時に、ムハンマドという少年と出会った。彼は危険な地域にたった一人で滞在しており、自分がどこにいるのかも分からない状態だったという。エーフィエらは、彼のようなヨーロッパを目指す若者の庇護希望者に関心を持ち、リサーチを開始した。各国の国境付近などを訪れ、ヨーロッパへ向かう多くの若者と話す。その中で、彼らが危険を冒して不法に越境する挑戦を「ゲーム」と呼んでいることに衝撃を受け、『シャドー・ゲーム~生死をかけた挑戦~』の制作を決め、前述のムハンマドら数名の足取りを収めた。2021年公開。そして2023年、「ゲーマー」の一人、SKのその後の足取りを追った続編『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』の公開に至る。
 

〇『シャドー・ゲーム ~生死をかけた挑戦~』

 

内戦や紛争が続く諸国から、新たな居住先を求める若者たちの、ヨーロッパ国境を不法に越える「ゲーム」に密着した、2021年公開のドキュメンタリー映画である。

登場人物は、14歳から18歳までの7人の若者たちで、それぞれアフガニスタンやパキスタン、シリア、イラク、スーダンなどさまざまな国の出身だ。入国ができれば難民認定を受けられる可能性のあるヨーロッパの国々を目指して、彼らは危険を冒して不法な国境越えを試み、これを「ゲーム」と呼ぶ。国境を越えられれば勝利、越えられなければ負け(ゲームのやり直しか敗退)なのだ。ボスニアやギリシャなど、ヨーロッパの東側から、マケドニア、セルビア、スロベニアなどを経由し、それぞれの最終目的地となる西ヨーロッパ諸国を目指す。列車に飛び乗ったり、貨物に紛れたり、あるいはひたすら歩き続けたりと、「ゲーム」の種類は様々だ。たとえば、登場人物の1人、SKは、アフガニスタンを脱出し、7ヶ月をかけて、徒歩で5,000キロも先にあるギリシャにたどり着いた。各国には国境を巡視する警備隊がおり、難民の不法侵入を監視している。警備隊に捕らえられて暴行や拷問を受け、元いた場所に追い返されたり、そのままトラックで運ばれて強制収容されたり、思うように「ゲーム」は進まない。盗難も、仲間や密入国業者とのトラブルもある。

「ゲーム」を繰り返す若者たちの思いもさまざまだ。政情不安な故国を離れ、ひたすら将来の夢を追い求める者もいれば、家族を救うため、故郷を再建するためと理想を語る者もいる。それぞれのゴールに向かって「ゲーム」に挑戦するが、その道のりは厳しい。目的地に到達し、「ゲーム」をクリアしたとしても、庇護申請が通らず、難民認定をされない場合もあるのが現状だ。
映画を通して印象的なのは、彼らに共通した、ある持ち物。それは携帯電話だ。情報を得るためだけでなく、離れた故郷にいる家族や友人と繋がることのできる唯一の手段である。電波が途絶えれば彼らはその手段さえも失ってしまう、大切な持ち物なのだ。家族に会えない寂しさ、いつ終わるのかわからない不安と葛藤、彼らはそれでも、川を渡り、森を越え、「ゲーム」を続ける。
3年にわたる撮影のなかで、20回目の「ゲーム」の末にある大国に入れたが、さらに別の国を目指す者、密入国事業に関わり「ゲーム」をやめてしまった者、コロナウイルス蔓延の影響で一時は「ゲーム」を中断するも再び「ゲーム」に挑戦する者……
前述のアフガニスタン出身の少年SKは、「ゲーム」を続けることを諦めなかった。本作撮影後の彼の軌跡を追ったのが、続編『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』である。

〇『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』

 

2023年の新作『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』では、前作『シャドー・ゲーム ~生死をかけた挑戦~』の登場人物のひとり、SKの「ゲーム」の続きを描く。今作では彼自身が監督のひとりだ。長い旅の中で自分の撮影した写真や動画、前作の監督2名(エーフィエとエルス)とのメッセンジャーでの交信画面、デバイスの位置情報を用いて移動ルートを示すグーグルマップ等が巧みに入れ替わる構成でストーリーは進行し、スタジオにいるSKが適宜回想を語る。

前半では、ギリシャ、マケドニア、セルビア、ボスニア、ハンガリー、ルーマニア、スロヴァキア、チェコを経由してベルギーに到着するまでの道のりをたどる。スマホ画面のメッセージがピンアップされ、自らの状況だけでなく、他のゲーマーが国境を越える際に暴力を受けていたり、難民キャンプで暴動が起こったりする様子も表示される。
SK(本名サジド・カン・ナシリ)は、14歳のときにタリバンの脅威のため母国を離れたアフガニスタンの少年で、国境を渡り歩いていた。ボスニアで新たな友人マジドに出会い、行動を共にするも、離れ離れになってしまう。「ゲーム」は過酷であり、常に疲労が蓄積するだけでなく、いつ警備隊に見つかるかもしれない恐怖との闘いでもある。
前半のクライマックスは、ルーマニアのティミショアラからスロヴァキアに向かうトラックのコンテナに潜入する「ゲーム」である。これに成功したSKは、EU圏内を移動して希望するベルギーにたどり着き、エーフィエとエルスとも再会する。
作品の後半は、到達地ベルギーが舞台だ。新天地での予想外の困難に、精神的に追い詰められる「マインド(精神)・ゲーム」が描かれる。庇護申請をしたら年齢を疑われ、18歳未満だと認められなかったため、しばらくは教育も正当に受けられない状況が続く。その後手を尽くして学校で学ぶことを許されたSKだが、やはり「マインド・ゲーム」に苦しむ友人マジドの悲報に接する。長期間にわたる難民認定やセンターの環境の悪さにも疲弊する。給付金を受けながら学校に通うも、母国に残した家族のことも気がかりだ。そんなSKにも、今は通訳者になるという夢がある。やがて彼のもとに、難民認定の最終結果が届く……。

2.監督紹介

・サジド・カン・ナシリ Sajid Khan Nasiri(『マインド・ゲーム』のみ)

本作および『シャドー・ゲーム』でSKとして登場する、現在ベルギー在住のアフガニスタンからの難民。14歳でタリバンの迫害を逃れて単身ヨーロッパを目指した彼は、国境越えの「ゲーム」に何度も挑み、EU圏内に入ることに成功し、ベルギーでの難民として認められた。それまでの苦労の日々を振り返り、自伝的ドキュメンタリーとして、本作を『シャドー・ゲーム』の監督2名と共同でまとめた。(2つの映画の登場人物紹介も参照。)

・エーフィエ・ブランケフォールト Eefje Blankevoort

 

ジャーナリスト。アムステルダム大学で歴史を専攻。 2002年から2006年まで、定期的にイランで過ごしながら、勉学のかたわら、社会史国際研究所のためのアーカイブ収集や著書 『ここでは何でもこっそりできる』の執筆に取り組んだ。 現在、ジャーナリストとして幅広く活動し、記事や書籍の執筆、インタラクティブ・プロジェクトや展示会、ドキュメンタリー映画の制作を行っている。さらに、メズラーブ・ストーリーテリング・センターおよびオーディオ集団「無限の音」の理事も務めている。

・エルス・ファン・ドリール Els van Driel 

 

ドキュメンタリー映画作家。人権、移民、宗教問題を専門とする。若者たちの権利につ いて描いたドキュメンタリー Mensjesrechten/Just Kids で、シネキッド映画祭 2015の 審査員賞を受賞。マルチメディア制作の The Asylummachine (2016年、オランダ映画祭で Gouden Kalf にノミネート)、EUとトルコ間の難民対策協議に関する作品 The Deal (2017) の共同監督を務めた。 若者たちについてのドキュメンタリー作品には、How Ky Became Niels (2015年にBanff Rockie賞、2016 年に Prix Jeunesse)、 A Year without My Parents (2016年、シカゴ国際児童映画祭で児童・アダルト審査員賞) がある。
彼女は、エーフィエと共に前作『シャドー・ゲーム〜生死をかけた挑戦~』の監督を務めた。これは、ゲーム、写真展、キャンペーン、複数のドキュメンタリー映画を通じて、視聴者や体験者に、安全を求めてヨーロッパを目指す若者たちが直面する、移動や庇護申請の苦難や問題についてより深い理解を促すために行った企画 Shadow Game Project の一環である。

3.登場人物と彼らの足取り

・『シャドー・ゲーム』主な登場人物

本作品において「ゲーム」に挑戦する主な少年たちを紹介する(年齢は撮影時のもの)。
また、地図では少年たちのそれぞれ異なる足取りを示している。
 
 

・ムハンマド(Mohammed)
出身:シリア
年齢:14歳
シリアから抜け出し、野宿をしながら「ゲーム」に挑戦する。家族の中でシリアを逃れたのは自分と兄のみで、父は行方不明。母や姉妹たちを救うために、兄とのヨーロッパ行きを決意する。

 

・SK
出身:アフガニスタン
年齢:15歳
多くの仲間とともに「ゲーム」に挑む。ボディビルが趣味で、将来の夢は生物学を学ぶこと。最終目的地はイタリア。警察に何度も捕まって旅は難航するものの、希望を持って恐れずに進み続ける。(本作の続編『マインド・ゲーム ~自分の力を信じて~』では主人公と監督を兼務する。)

 

・ジャノ(兄)とシロ(弟)(Jano&Shiro)
出身:シリア
年齢:18歳と15歳
2人は移動先のトルコで、劣悪な環境の中、仕立て屋として働いた経験を持つ。仕事を辞めたのちも、クロアチア国境で暴行を受けるなどの苦難に見舞われるが、屈することなくさらに先へと進む。

 

・ドゥッラーブ(Durrab)
出身:パキスタン
年齢:16歳
セルビアからハンガリーとの国境を越えようと試みるが、1年半足止めを食らう。家族に心配をかけないために、健康に暮らしていると嘘をつく。

 

・ヤシーン(Yaseen)
出身:パキスタン
年齢:17歳
これまで17回以上、セルビアからの越境を試みるが、失敗。この国境付近で猫のシェールと出会う。

 

・ファイズ(Faiz)
出身:スーダン
年齢:15歳
戦争で壊滅状態の故郷を逃れる。将来の夢は、スーダンのリーダーとなって故郷を再建すること。

 

・ムスタファ(Mustafa)
出身:イラク
年齢:17歳
故郷にも移動先にも居場所がなく、家族は皆離れて暮らしている。警察から拷問を受け、手に怪我を負う。

・『マインド・ゲーム』主な登場人物

本作の主な登場人物を紹介する(年齢は撮影時のもの)。
また、地図では二作を通してSKがたどってきた経路を示している。

 

・SK
出身:アフガニスタン
年齢:18歳
『シャドー・ゲーム』でも登場し、SKとのみ記されていたが、続編のこの映画では、サジド・カン・ナシリ(Sajid Khan Nasiri)という本名が明かされているばかりか、監督も務める。タリバンに父親を殺され、14歳という若さで1人で母国のアフガニスタンを離れ、ヨーロッパへと向かう「ゲーム」に挑戦する。その移動の様子や道中の出来事を、知り合った仲間たちとともにスマートフォンで撮影し、発信してきた。前作ではイタリアを最終目的地としていたが、今作ではベルギーを目指す。念願のベルギー到着後、新生活が始まって学校にもすぐ通えると考えていた。しかし、庇護申請が通るまでの道のりは長く、何もできずに時間だけが過ぎていき、精神的にも苦しい「マインド・ゲーム」の日々が続く。

 

・ワカス(Waqas)
出身:アフガニスタン
年齢:不明
SKとトルコで出会い、出身が同じということもあって仲良くなる。その後しばらくの間、SKとともに移動し、撮影にも協力してきたが、互いに別の「ゲーム」に挑戦することとなり、離れ離れになる。その後は「必勝ルート」でSKよりも早く「ゲーム」に成功してドイツにたどり着く。

 

・マジド(Majid)
出身:アフガニスタン
年齢:17歳
SKとはボスニアで知り合い、つらい日々をともに過ごしてきた親友である。芸術的センスを発揮して生活に彩りを与えるが、タリバンに兄弟を殺されて心を病んでおり、SKに度々励まされてきた。SKより遅れてベルギーに到着し、久しぶりに再会を果たしたものの、年齢検査で未成年と認定されず、思い詰める。やがて……

 


4.用語解説

・密入国業者

密入国業者(smuggler)とは、移民が非正規に入国するための移動手段を手配する「ブローカー」のこと。彼らは利益を優先して大量の難民を輸送するため、船の沈没やトラックのコンテナ内での窒息などで多くの犠牲者も出ている。密入国は犯罪組織の関与もあり、危険を伴うが、映画に出てくる若者たちもそれを承知の上で業者に大金を支払い、乗り物の斡旋や徒歩による山越えの手引きを受ける。

・ハンガリー=セルビア間国境について

バルカン・ルート〔注1〕の経路にあたるハンガリー=セルビア国境は重要な意味を持つ国境である。セルビアは非EU加盟国で、シェンゲン協定〔注2〕にも参加していない。一方、セルビアの北に位置するハンガリーはEU加盟国であり、シェンゲン協定にも参加している。それゆえ、ハンガリーに入国さえできれば、難民や移民でも旅券(パスポート)なしで加盟国域内での移動が可能になる。
ハンガリー政府は2015年に新法を施行し、セルビアからの不法な入国に対する取り締まりを強化した。ハンガリー政府はセルビアとの国境にフェンスを設置した上、数百人もの兵士や警官を配置して国境付近の警備体制を強めた。また、越境を試みる移民数万人の拠点としていた地帯を封鎖。その結果、多くの難民や移民がセルビア側の国境で立ち往生する事態となった。そのような背景もあり、『シャドー・ゲーム』に登場する少年たちはいずれもハンガリー=セルビア国境を迂回するルートでヨーロッパを目指す。

〔注1〕バルカン・ルート:トルコから海を渡ってギリシャへ、 その後は陸路でマケドニア、セルビアを北上してヨーロッパ諸国に渡るルート。
〔注2〕シェンゲン協定(シェンゲン規則):主にEUに属するヨーロッパの加盟国間では出入国審査なしで国境を自由に往来できることを定めた協定および関連規則のこと。1985年にルクセンブルクのシェンゲンで5ヵ国によって署名された文書に基づくためにこの名があり、現在は27ヵ国がこれに締約し、いわゆる「シェンゲン地域」を構成している。ただし2011年の「アラブの春」以降、中東・北アフリカなどからEU諸国に大量の人々が押し寄せるようになり、この協定の維持が揺るがされ始め、2015年には緊急対応としてドイツ、オーストリア、ハンガリーなどが一時的に国境管理を再導入した。

・年齢検査

年齢検査(age test; age assessment)とは、EU諸国において未成年であるか判断の難しい庇護希望者を対象に行う医学的な年齢判定の作業や制度を指す。具体的には18歳未満かどうかによって、難民認定の可否や、就学の機会など、認定された場合の扱いが異なるため、重要な検査である。
EUでは、2021年3月末に発表した、子どもの権利保障に関する戦略(The EU Strategy on the Rights of the Child)に基づき、保護者を伴わない未成年の庇護希望者が性的搾取や人身売買の対象となっている現状に対処するため、未成年者の庇護の強化を行っている。また、未成年の難民として認められれば、受け入れ国は就学の機会を提供することになる。しかし、諸外国からEU諸国に単身でやって来る若者たちには、母国への強制送還を恐れて、パスポートなどの公的な身分証明書をあえて捨ててくる者もいるため、成年か未成年かを判断するために、当局による医学的な年齢検査が必要となる。
主人公のSKがたどり着いたベルギーでは、入国管理局が病院に依頼し、レントゲンやMRIを用いて歯、鎖骨、手首の発育状態を調べることによって、検査結果を出す。SKの場合は、提示した証明書の信憑性が疑われたため、この検査を受けることになった。

5.Shadow Game Project とは

2つの映画は、Shadow Game Project というトランスメディア企画の一環である。作品の監督として携わるエーフィエ・ブランケフォールトとエルス・ファン・ドリールは、安全を求めてヨーロッパを目指す若者たちが直面する、庇護申請の苦難などについて理解を深めるために、『シャドー・ゲーム』と連動する形で、このShadow Game Project を始めた。
2021年9月〜12月にかけて、ニューヨークでの、無料フォトフェスティバル Photo Villeにて “A New Beginning”と題したフォトギャラリーを出展。難民の子どもたちの生き生きとした姿が映し出された。またこのプロジェクトの特設サイトでは、映画に登場した若者たちのような、未成年の子どもの保護に賛同する署名や各種の募金への呼びかけも行っている。
特設サイトにはさまざまなコンテンツが並ぶ。2つの映画の紹介だけでなく、音楽(映画のサウンドトラック)、アニメーション、写真、若者たちの音声クリップなどがあるが、特に注目したいのは、『シャドー・ゲーム』に登場した、ジャノとシロ、ドゥッラーブ、ムハンマド、ムスタファのその後に迫る4つの短編ドキュメンタリーだ。


Shadow Game Project 特設サイトはこちら





6.『マインド・ゲーム』の字幕作成に携わった学生の注目ポイント

学生A
私たちが普段日本で暮らしているなかでは見られないような現状が映し出されており、紛争そのものの裏で起きている難民問題の深刻さを改めて訴えかける内容になっています。早急に母国を逃れ、難民として保護されるべく、ときには違法ともいえる方法で国境を越えざるを得ない人々の苦労が垣間見えます。難民認定における手続きに関してもあまり馴染みが無く、例えばGrowth Packageと呼ばれる給付金制度の概要が一般的ではないため、表現が難しい部分がありました。
また、映画自体はSKを主人公とした「ゲーム」の終始を記録した一連の物語ではあるものの、「このような過酷な旅を成し遂げたうえに、世界に発信しようとするSKはすごい」という内容を強調したいわけではなく、あくまでも映像として映せる範囲においての難民の厳しい現実を発信する一例として、社会全体の問題意識を高めるきっかけになるように意図されていると思いました。難民問題が身近に感じられないからといって存在しないわけではなく、その背景を知られていないばかりに心無い攻撃の対象とされてしまう「難民」の実態を完全に把握しきれないことが問題の解決を難しくしてしまっているのかもしれません。


学生B
本人によって撮影された映像が使われているので、「ゲーム」がどういったものなのか、人々がどのような環境を生き抜いているのか、彼らが進む「自分の道」には何が待っているのか、赤裸々な現状が映し出されています。特にSKは前作を含め、「ゲーム」に何度も挑戦して、クリアできなかったとしても何度でも挑戦し続ける姿が印象的な人物です。字幕をつくるときにも、それぞれの場面での彼の悩みや思いを忠実に翻訳できるよう心がけました。難民として認定されるまでの壮絶な道のりにも諦めず挑み続ける姿に注目して観てください。

学生C
映画の字幕の文字数は、聞こえるセリフの長さ(秒数)に制約されます。本作の監督でもある主人公SKは作中で命をかけた「ゲーム」に挑戦しています。国境警備員や警官に見つからないように彼は、時に早口でセリフを発しますが、そのようなシーンに字幕をつける際、改めて翻訳の難しさを感じました。元の英文をそのまま日本語に訳すと字数オーバーになる反面、セリフを大きくカットしたり、曖昧に訳すことは、話し手の伝えたいことをねじまげかねないからです。字数の制約がある中で、いかに元の意味を崩すことなく限られた字数に落とし込むかが字幕制作において重要であると感じました。

 

7.映像翻訳ラボについて

青山学院大学総合文化政策学部には、外部の企業や団体と協力して活動する実習授業「ラボ・アトリエ実習」(通称「ラボ」)があります。「映像翻訳ラボ」(正式名「映像翻訳を通じて世界と関わる」)は、2010年度から継続しているプロジェクトで、宮澤淳一教授の指導のもと、日本映像翻訳アカデミーでの研修・指導協力を経て、「UNHCR難民映画祭」や「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」で上映される作品の字幕作成に、毎年取り組んでいます。

今回の担当作品『マインド・ゲーム ~自分の道を信じて~』は、ラボ創設から34本目の字幕提供映画であり、2023年度履修生ら8名が字幕を作成いたしました。本作は2年前に本ラボが字幕提供を行った『シャドー・ゲーム ~生死をかけた挑戦~』に続く続編となっております。この解説ページは2021年度履修生15名が作成したページを拡張したものです。2つの作品と合わせてご覧ください。
最後に、この映画に携わるという貴重な機会をくださった、国連UNHCR協会と日本映像翻訳アカデミーの関係者の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。また、字幕に関する知識をご教示たまわりました日本映像翻訳アカデミーの桜井徹二先生、石井清猛先生に厚く御礼を申し上げます。

以下の公式SNSアカウントにて、映像翻訳ラボの詳しい活動内容などを投稿しています。興味のある方は閲覧・フォローしていただければ幸いです。

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©青山学院大学総合文化政策学部映像翻訳ラボ(宮澤淳一研究室)

 

 

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▼その他の上映作品の紹介はこちら

ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦

心の涙をことばにして ~今日を生きる子どもたち~

私は歌う ~アフガン女性たちの闘い~

南スーダンで生きる ~ある家族の物語~

 

 

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