第18回難民映画祭・監督インタビュー:命を懸けたゲームの舞台裏 ~『シャドー・ゲーム』『マインド・ゲーム』の監督たちは語る(学生たちによる特別インタビュー)~
このページには、『シャドー・ゲーム 〜自分の道を信じて〜』『マインド・ゲーム 〜生死をかけた挑戦〜』の監督インタビューを掲載します。 インタビューにあたったのは、私たち、青山学院大学総合文化政策学部映像翻訳ラボの学生チームです。私たちは、2021年度に『シャドー・ゲーム』、2023年度に『マインド・ゲーム』の字幕を作成し、それぞれの完成後に質問を送り、答えてもらいました。
公開日 : 2023-11-28
『マインド・ゲーム』でも語られなかったSKの事情やその後がわかりますし、日本の皆さんに向けたメッセージもいただきました。作品をご覧になられた方も、まだご覧になったことのない方も楽しめる内容です。ぜひご一読ください!
青山学院大学総合文化政策学部映像翻訳ラボ
『シャドー・ゲーム』について( エルス・ファン・ドリール監督とエーフィエ・ブランケフォールト監督)
Q1. 数多い難民問題の中でも、この作品に登場するような自力で居場所を求める若者たちに焦点をあてたのはなぜですか?
A1.
数年前、ギリシャ領のレスボス島で、The Deal というEUトルコ間の難民対策協議をめぐるドキュメンタリーの撮影をしていた時のことです。島の中心にある町ミティリーニの港で、打ちのめされ気力を失っていた男の子がいました。話しかけてみると、ガンビア出身の15 歳でムハンマドという名前の少年でした。子どもなので、それに応じた保護を受けられるはずなのに、書類上は大人として扱われており、モリア難民キャンプから出られません。そこで情報も医療もメンタルケアも法的支援も得られずにいたのです。「なぜこのようなことになっているのか?」と私たち取材班は自問しました。
すべてのEU 加盟国が難民条約と子どもの権利条約に批准しているにもかかわらず、なぜムハンマドの権利は奪われているのか? この出会いが私たちの調査の始まりだったのです。保護を求めてヨーロッパを目指す子どもたちに何が起きていて、なぜそのような子どもたちは単独で行動しているのか。子どもたちの視点から本作を作りたいと考えました。この旅に耐えなければならない事情は何なのでしょうか?
Q2. SK、モ、ヤシーンが、国境越えを「ゲーム」と呼んでいます。彼らは自発的にこの喩えを使っているのでしょうか? それともよく使われる表現なのでしょうか? 実は最近、若者たちがこれを「ゲーム」にたとえている、という記事を読みました。この見解はどれほど普遍的なのでしょうか?
A2.
アフガニスタンとパキスタン出身の男の子たちの口から初めてこの言葉を聞きました。彼らは常に「ゲーム」について話題にしていたのです。SK は私たちに「ゲーム」とは旅の苦難と向き合う方法だと話してくれました。平常心を保つために、旅ごとにレベル分けをし、より困難な「ゲーム」に挑戦します。これは臨機応変に対応するための仕組みなのです。その言葉を映画のタイトルにしたのは、子どもたちがよく使っていたし、さらに彼らの価値観をうまく表した言葉だったからです。別の男の子はこんなことも言っていました。「僕たちは影の中を動くんだ」と。子どもたちはいつも夜にゲームをしていて、さらにヨーロッパの影の世界を進んでいくので、「ゲーム」と影(シャドー)という言葉をつなげてこのタイトルにしました。
Q3. 国を逃れようとする若者たちの中では、いわゆる「ゲーム」をすることが一般的なのでしょうか? 正式な手続きを踏む人はいるのでしょうか?
A3.
子ども、大人、家族を問わず、誰にとっても、安全な経路はほとんどありません。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)には、第三国定住プログラムがありますが、その支援を受けられる人は非常に限られています。
Q4. 若者たちの言葉にはたいへん現実味があり、印象的でした。出演者たちが語るシーンでは、彼らに自由に話してもらったのでしょうか? それとも監督が投げかけた質問に答えていたのでしょうか?
A4.
もちろん、私たちから質問を投げかけたこともありましたが、そういう場面はほぼ削りました。彼らが私たちに話を聞かせてくれるのは、彼ら自身のためでした。過酷な経験をした若者たちは、自分たちの物語や考えを共有したがっていたのです。
Q5. ベルリン人権映画祭のインタビューの中で、彼らの危険な旅は、人々の目に映らない「影の世界」(shadow world)の中で起きていることだとおっしゃっていますね。この「影の世界」で起きていることは現実であり、世界中の人が知るべきであるのにもかかわらず、この映画が作られるまで、あまり知られていなかったのはなぜなのでしょうか?
A5.
ヨーロッパでは他の国と同様に、見て見ぬふりをしているのでしょう。ヨーロッパでの保護を求めて自分の国を逃れる人々の苦難は、私たちの目と鼻の先で起こっています。「光」と「影」が存在する場所として、最もはっきりと目に映るのがイタリアのヴェンティミリアです。少年たちが眠り、食事をし、生き延びる場所である橋は、有名なコートダジュールの街へと続いています。富裕層と貧困層がほんの数メートルの距離に存在しているのです。誰がこんな世界に足を踏み入れたいと思うでしょうか?
Q6. 旅を続けるための資金調達の方法は出演者によって違うようですが、どんな方法がいちばん一般的なのでしょうか?
A6.
ウェスタンユニオンなどの送金会社を通じて家族からお金を受け取ることもあります。中には違法労働や売春をしたり、自分が密入国業者になってしまう人もいます。
Q7. 映画内では登場人物たちがスマートフォンを使用する場面が多く登場します。彼らにとってどれほど重要なものなのでしょうか?
A7.
スマートフォンは電話以上のものです。旅の途中で家族や友人、密入国業者と連絡を取るためだけでなく、GPS を使って道を探すための、最も重要なライフラインなのです。もちろん、最近の若者と同じように、旅の記録のためにも使用していました。
Q8. モが、キャンプからの支給金が少ないために、違法にお金を稼いでいると言っていましたが、あの映画の中で、彼のほかにも違法な労働をしていた若者はいたのでしょうか? また、それをしていると、庇護申請の結果に影響はあるのでしょうか?
A8.
ドゥッラーブは密入国事業に関与しています。彼の庇護申請が却下されてしまったことは、おそらく彼が密入国事業によりいっそう関与することになった理由の 1つです。彼はパキスタン人のため、庇護申請の審査を通過することは大変困難なのです。
Q9. ギリシャでSKたちの治療をしていたのは Mama Rose というボランティアだったそうですが、その他にも子どもの難民を手助けするボランティアはいましたか? それはどんなボランティア団体ですか? 若者たちにとってボランティア団体の支援を受けることは普通なことなのでしょうか?
A9.
幸運なことに、様々な規模の団体や、活動する場所を転々と移動をしながら子どもたちを支援する個人を含む多くの人々もいます。難民を助けるために世界中から、女性を中心としてたくさんの若者のボランティアが集まっていたのです。彼女たちがいなければ、難民が被る人道上の被害は、さらに深刻なものとなるでしょう。
Q10. この作品の続きとしてオンラインで見られるシロとジャノの短編作品で(Q12. の Shadow Game Project を参照)、オランダでは 18 歳未満のシロが様々な支援を受けている一方、18 歳以上のジャノは同じような支援が受けられず苦しんでいる様子が描かれています。他の国でも年齢による対応の違いはあるのでしょうか?
A10.
残念なことに、「18 歳」という年齢の壁は多くのヨーロッパ諸国で大きな問題となっており、改善されるべきです。
Q11. 終盤にコロナ禍の若者の状況について触れられていましたが、撮影にも影響はありましたか?
A11.
1年近くSKに会いに行くことができず大変でした。(彼に密着した映画の制作に、現在も取り組んでいます[『マインド・ゲーム』のこと]。)また、数ヶ月間、編集者たちと一緒に作業することもできなかったのです。しかし最善を尽くして映画を仕上げました。
Q12. 公式サイトを拝見し、この映画は、Shadow Game Project というトランスメディア・プロジェクトの一環であることを知りました。フォトギャラリーや、「ゲーマー」たちのその後を追った短編ドキュメンタリーなどから構成されていますし、「私たちには何ができるか?」と呼びかけて、活動への賛同も呼びかけています。このプロジェクトは、『シャドー・ゲーム』という映画を作ることで発展したものなのですか? それとも、プロジェクト全体の中から今回の映画が生まれたのですか?
A12.
最初からすべてを計画していました。この映画を作ることは、私たちにとって映画を作ること以上の意味があります。若い難民に対する人々の見方を変え、何か行動を起こすことを促したいと思っています。つまり、Shadow Game Project は、難民の若者ではなく、ヨーロッパの人々を動かすためのプロジェクトなのです。現在のEU の庇護政策がいいと思いますか? ヨーロッパは1個の共同体なのに、そこに暮らす私たちは人間的価値をどこに求めているのでしょうか?
Q13. このテーマの活動は今後も続けるのですか? それとも何か違うプロジェクトもあるのでしょうか?
A13.
ヨーロッパにおける、同伴者のいない難民の子どもたちに対する深刻な権利侵害を、公的・政治的な議題として取り上げたいと考えています。子どもたちの強さ、困難から立ち直る力、才能を伝えることで、彼らの人生に良い影響を与えたいのです。これを達成するためには、世間の人々や、政策を生み出す場である国連、欧州委員会、欧州議会などに、難民の若者たちの声を届けなくてはいけません。そのために、「移動する子どもたちを守る」(Protect Children on The Move)というキャンペーンを始めました。
また、Shadow Game Project の公式サイトもぜひご覧ください。
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2023年11月、難民映画祭での『マインド・ゲーム』日本初上映にあたり、私たち映像翻訳ラボはエルス・ファン・ドリールとエーフィエ・ブランケフォールトに追加のインタビューを申し込み、質問を送りました。すると、多忙のため、回答の代わりに、既出のインタビューを紹介されました。ベルリン人権映画祭(2023年10月)にあわせて cineuropa.org のサイトに掲載されたインタビューです。
Davide Abbatescianni,“We hope to give faces and voices to the many untold stories of suffering involving people on the move”(interview with Els van Driel), October 26, 2023
これによれば、エルスとエーフィエが『シャドー・ゲーム』の続編として『マインド・ゲーム』を考え、SKことサジド・カン・ナシリを共同監督にしようと決めたのは、彼がベルギーに着いたあとも、二人に、ゲームの旅の途中の膨大な動画を送り続けてきていたからですが、実際、彼の旅が本当の意味で終わっていなかったことを認識したからもあったそうです。
しかし、難民認定されずに苦しむSKの精神的葛藤(マインド・ゲーム)という新しい旅をどのように描くのかは課題であったようです。最初はスタジオで語らせることは考えていなかったけれども、メイン・エディターが「君自身が旅の一部であり、君の会話や声無しには成り立たない」と言ったことで、スタジオでの撮影が決まったそうです。
『マインド・ゲーム』前半の撮影についてもエーフィエはコメントをしています。いちばんつらかったのは、寒い日々の続く各地でSKと再会してもまた彼を置いて帰らなければなからなかったことだと(もしも車に乗せて国境を越えたらエーフィエたちが逮捕されてしまうのです)。
私たちはまた、SKにも質問を送ったところ、彼はインスタグラムの動画で答えを寄せてくれました。以下がその内容です。
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Q14. 『シャドー・ゲーム』の監督であり、今回一緒に『マインド・ゲーム』の監督をすることになったエルス・ファン・ドリールとエーフィエ・ブランケフォールトとは、最初はどこで出会ったのですか? そしてどうして映画に関わることになったのでしょう?
A14.
ギリシャに何日か滞在していたときです。2人は移民に関するドキュメンタリーを作りたいと言っていた。でも、人々がどうやってヨーロッパまで来るのか、特に子どもたちの現状と直面している困難について彼女らはよく知りませんでした。そこで僕は映画に参加することを承諾しました。今、映画を一緒に制作して良かったと思っているし、誇りに思っています。
Q15. 『シャドー・ゲーム』の完成作を初めて観たのはいつですか? 観て何を思いましたか?
A.15
初めて『シャドー・ゲーム』の完成作を観たのはベルギーに着いたばかりのときで、観ていて辛かったです。実際にあの困難を体験した自分にとって、観るのはきつすぎました。どう説明したら良いかわからないけど、眠れなくなるほどでした。15歳で経験するには辛すぎる内容でした。
Q16. 『マインド・ゲーム』は映画のタイトルから考えても、ヨーロッパに行くまでよりも、ベルギーに到着してからのことに重きを置いたということでしょうか?
A16.
僕にとっての初めてのドキュメンタリーはご存じのように『シャドー・ゲーム』で、これはヨーロッパの国境を舞台にしていました。2年かかってベルギーに着いた後、やっと学校に行けると思ったのです。しかし、私が17歳であることを証明する必要がありました。そのため、『マインド・ゲーム』は、ヨーロッパのような西側諸国にたどり着いた若者が受ける年齢検査とその精神的プレッシャーを中心に描く作品となりました。
Q17.『マインド・ゲーム』では、特に国境付近でマスクを着用することが多かったようですが、COVID-19の影響はどうだったのでしょうか? ベルギーに到着した後のことも教えてください。
A17.
当時はコロナウイルス感染症が流行していた時期で、セルビア難民が押し寄せていた時期でもありました。半年ほど、私たちは外出することができなかったのです。もちろんマスクもつけていました。
僕はすべての問題が解決して、やっといい学校に入れたと思ったのに、それは間違いでした。映画にも描かれているように、年齢を疑われて、"疑いあり" の書類を渡されました。アフガニスタンに置いてきたパスポートの写真を見せましたが、「現物でないから信用できない」と言われてしまう。ここにはアフガニスタンの大使館はありません。しかし、弁護士の力を借りて、アフガニスタンからパキスタンにパスポートを送ってもらいました。届くまでに4ヶ月ほどかかったと思います。その後、僕は未成年であることを証明し、学校に行けるようになったのです。
Q18. Tik Tokをよく使用しており、その動画が『マインド・ゲーム』に収録されていました。映画のためにTik Tokで動画を作ったのですか?
Q18.
『マインド・ゲーム』に出てくるビデオはすべて映画用に録画しました。SNSなどでは流していません。TikTokを使っていますが、旅行中の動画は今まで投稿していません。動画はすべて映画のためです。現在は『マインド・ゲーム』や『シャドー・ゲーム』のトレイラーを投稿しています。
Q19. ベルギーについてしばらく経ちましたが、今の生活はどうですか?何をしていますか?
A19.
僕は今とても元気で幸せです。ベルギーの学校に通い、スペイン語とオランダ語を学んでいます。また、自分のTikTokチャンネルで文学とジャーナリズムを追求しています。新しいストーリーを作りたいと思っており、将来的にはもっと多くの映画を作るのが楽しみです。
Q20. 「ベルギーおじさん」との交流の場面にはほっとします。彼はどうしていますか? 現在も交流がありますか?
A20.
おじさんとは月に1回会っています。先週も会いました。彼は僕にとって先生でもあり、たくさんのことを教えてもらっています。彼といる時間が大好きなんです。また、おじさんのご夫婦は今でも僕のような状況にいる子どもたちを助けています。
Q21. 日本の観客に向けてメッセージをお願いします。
A21.
日本の皆さん、この映画を観てくださり、ありがとうございます。ヨーロッパ圏以外の人に観てもらえるとは思っていなかったので、驚きと嬉しさでいっぱいです。僕自身は戦争と独裁によりアフガニスタンから逃げてきましたが、僕たちはみんな同じ人間だということを忘れないでほしいです。もしあなたのまわりで難民を見かけたら、親切に、彼らの話を聞いてあげてください。第二次世界大戦中の日本人にも同様の状況に直面した人がいたはずです。
改めて『シャドー・ゲーム』と『マインド・ゲーム』をご覧いただき、本当にありがとうございます。いつの日か日本に行けることを願っています。
※インタビューはすべて英語で行われた。
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